総括およびあとがき―問診から四診を構築する
師匠である梁哲周先生がお亡くなりになる。私にとって恩人であり,未だ鍼灸界の末席に居られるのは師匠のお陰だと思っている。
その師匠が生前教えてくれたことの1つに「問診から三診を規定する」という臨床上達法がある。
日本は中国の臨床現場と比べ,指導教官が手取り足取り教えてくれるという環境にない。あれば幸運と言わざるをえない。きわめて少ないのが現実である。薬剤師や鍼灸師ならなおさらそうだろう。本を読み,勉強会や講習会に参加しながら,現場ではひとり,悪戦苦闘する姿が目に浮かぶ。
脈や舌のどこまでの範囲をその概念に収めるかは,なかなかに難儀な作業といえる。舌質紅や脈細の切れ目をどことするのか?
師匠は,その指導教官の役割を問診にもたせろと言われた。
まず問診の精度を高める。その問診で仮説の証を立てる。その仮説の証とほかの三診を比べてみる。そこに整合性を見いだす。その実際を通した思考訓練の集積から,脈舌などの範囲規定が見えてくる。舌紅かどうかの微妙な境界線でも,問診で熱証という解が確実に得られるなら紅としてみよ,ということであり,問診を論拠にほかの三診の精度を上げる学習法である。それを繰り返せば,短期間のうちに三診が上達し,老中医のように脈診から入る診察法も可能になる。つまり本書は,常に湯液・鍼灸を含めた漢方界のレベル向上を意識しておられた師匠の意に沿ったものであり,ひとりで悪戦苦闘する臨床家のサブテキストとして,机の片隅に置いてもらえれば本望である。
弟子として,この書を師匠の霊前に捧げたい。