あとがき
経筋理論は,針灸学における重要な構成要素であり,経筋病は,臨床でも多発する病症である。特に中高年以上で常見され,治りにくい痛みやしびれの多くは,経筋に蓄積した損傷が原因である。さらに経絡や内臓の疾病の多くも,経筋病が影響して引き起こされる場合がある。
経筋の作用は,「骨格を束ね,関節を滑らかにすること」である。現代医学の解剖学や生理学による分析から,「十二経筋」とは,古代医家が示した12本の運動力線の観点から検証した,人体筋肉学・靱帯学およびその付属組織が分布する法則を総括したものであることがわかる。筋肉や靱帯の起始点およびその付属組織は,人体が活動するときに力を受ける点であり,通常の活動以外でも容易に損傷する部位である。とくにもともと保護する役割をもつ付属組織,たとえば,滑液包・腱鞘・脂肪層・滑車・子骨・副支持帯・骨性線維管や神経の出入りしている筋肉,あるいは筋膜固有の神経孔などは,まず最初に非生理的な損傷を受けやすい組織である。慢性化して治癒しにくい痛みやしびれは,経筋が何度も損傷と修復を繰り返す過程で形成された,癒着や瘢痕がおもな原因である。つまり「横絡」する経絡が機械的に圧迫されたために,気血阻滞が改善しにくくなり,長期的に津液が滲出して,凝聚,浸潤した結果である。十二経筋が関係する上記組織の分布を,臨床での検証に照らし合わせて具体的に分析して, 200余りの常見される「筋結点」としてまとめ,これを経筋弁証論治から導き出された思索方法によって,分布の法則をまとめあげたのが本書である。治療の鍵となるのは「解結針法」を用いて「横絡」の圧迫を弛緩させることである。すなわち「一経が上実下虚で不通のものは,これ必ず横絡が大経に盛加して之を不通にさせ,視して之を泄する。これを解結といわれるなり」である。
明の張介賓は「十二経脈の外にある経筋とは何か? 経脈を覆うように営気が表裏をめぐる。そのため臓腑を出入りし次を以て相伝する。経脈は百骸と連携を取っており,そのため全身の維絡には定位置がある」と指摘している。本書は「筋結点」と解剖学の関係を直接観察して表現したため,多くの経筋愛好家が理解することに適しており,臨床上の操作の参考としてもさらに使いやすくなっている。われわれは,『黄帝内経』『経筋理論と臨床疼痛診療学』を参考に本書の基礎として,筋結点と神経・血管・筋肉・骨格の関係を図譜として編纂し,系統的に200以上の筋結点の解剖位置・効能・主治および注意事項を紹介している。本書を多くの経筋愛好家に手に取っていただき,経筋理論発展の一助になれば幸いである。
編者