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中医鍼灸、そこが知りたい

 おわりに
 
 臨床に携わり二十数年が経過する。あっという間に時が流れた。
 この間、ふたつの柱を行動の指針とする。
 「患者に益する臨床家を目指す」ことと「先人の教えを次世代へ伝承する」のふたつである。
 まず臨床で感じたこと、出会った事実を極力言語化し再現性を高めるよう努めた。患者の表現する多種多様なオノマトペを中医用語に変化する作業は思いのほか難儀する。言語化しにくい技術的感覚は、そこにたどり着くまでの過程を方法論という形で補うようにした。脈舌のあらわす意味と現状との乖離にも論理の整合性をもって解釈する。
 伝承に関しては、発展過程の人間として、自身の力量から鑑み、主に初級者を中級レベルまで引き上げることを目標にする。
 前半の十年は師匠梁哲周先生の教えを嚙み砕き伝えることに重点を置く。性格上、軽いトーク口調になりやすいため、心の中で師匠と会話し、相手の認識レベルに合わせ、慎重に言葉を選びながら対話する。命門会会長時代の十年であり、自身よく考えた時代でもあった。
 比べて後半から現在までは三旗塾塾長としての顔である。先の経験を理論のなかに埋め、キーワードを作り発信するように努めた。思ったこと、感じたことを解放的に語る姿勢に変化する。感じた時代であったように思う。
 考え、感じ、そして悟る。
 今後は悟りの時代に入りたいが、そうたやすいものではないだろう。まだまだ感じる時代が続きそうだ。
 将来を見据えるも、真実は今の一瞬にしかないのではなかろうか? 日々の臨床の一瞬に精魂を傾ける臨床家として生を全うしたい。六味丸合補中益気湯合足三里の灸合太谿の鍼の日々はまだまだ続く。
 
     二〇一〇年十一月

著 者