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中医学をマスターする5つのステップ

【書評】『経脈病候の針灸治療』

『経脈病候の針灸治療』


経絡の魅力に触れることができる良書
 『経脈病候の針灸治療』(張吉主編,鈴木達也翻訳)


九州看護福祉大学鍼灸スポーツ学科 教授  篠原 昭二


 本書は,張吉主編の『経脈病候弁証与針灸論治』(人民衛生出版社,2006年刊)を鈴木達也先生が翻訳し,東洋学術出版社より刊行された図書である。日本の鍼灸流派のなかに,いわゆる経絡治療が存在する。しかし,「経絡」を冠しているが,経脈や絡脈を含む経脈の病証を網羅するものではなく,六部定位脈診から帰納された経絡の虚実の脈証を主体として表現したものにすぎず,これをもって経絡の病証と判断することには無理がある。また,中国では経絡学と腧穴学(経穴学)が区分されており,経脈の流注・機能・病証なども克明に教育・研究されているが,日本の鍼灸師養成施設においては,両者をひとまとめにした「経絡経穴概論」が教授されており,その内容は経絡学に関しては単に経脈の流注の概要を簡潔にまとめたものにすぎない。さらに経穴学においても部位や解剖に重点が置かれ,主治症や穴位効能にはほとんど触れられていないのが現状である。

 2019年,WHO総会においてICD-11の改定案が採択され,このなかに初めて「経脈病証」も疾病コードの一部として正式に取り上げられることとなった。しかし,日本における経脈病証の研究の歴史や業績はそれほど十分ではなく,結局,『霊枢』経脈篇の是動病・所生病の記述を利活用したものとなった。日常臨床の現場で是動病や所生病が活用されている証拠は 極めて少なく,実用性が乏しい可能性がある。
 筆者は,本誌144号(37巻1号,2016年3月)の鍼灸百話(28)~157号(40巻2号,2019年6月)の鍼灸百話(41)まで,十二経脈における病証に関する記事を投稿してきた。ここでは,是動病・所生病にとどまらず,各経脈ごとに①臓腑に関する症状,②精神症状,③経脈流注上の病証,④経筋病証に区分して整理してきた。未だ仮説の域をでないが,今後さらに詳細な検討を進める予定である。

 他方,今般の本書の発刊は,誠に時宜を得たものであり,内容的にも非常に充実した整理がなされている。
 本編の構成は,十二経脈と奇経八脈の病候を系統的に網羅し,それらを①本経が内循する本臓(腑)の病候,②本経が外循する肢体や体表部分の病候,③本経と関連する臓腑・組織・器官の病候,④本経の経筋・絡脈の病候の4項目に分類している。さらに,この4区分の症状を虚実・寒熱の四綱弁証によって整理して証候分析・治法・選穴・選穴解説が行われており,読者の理解を促す構成となっている。
 たとえば足の陽明胃経を見ると,①本経が内循する本臓(腑)の病候として,1)食事がのどを通らない,胃脘痛,2)嘔吐,3)消穀善飢,4)癲狂が取り上げられている。②本経が外循する肢体や体表部分の病候としては,1)口や目の歪み,2)喉痹,3)顔面の痙攣,4)鼻の病症(鼻閉,鼻出血),5)足陽明経の気厥(経気の厥逆),6)循経疼痛(循行部位上に現れる痛み)が取り上げられている。③本経と関連する臓腑・組織・器官の病候としては,1)咳喘,2)宗気の病候(心拍異常),3)大腸,小腸の病候(泄瀉,小便不利,便秘,小便短赤)が取り上げられている。④本経の経筋・絡脈の病候としては,1)経筋の病候,2)絡脈の病候が取り上げられている。

 湯液が臓腑弁証を主体とするのに対して,鍼灸治療は経絡弁証を主体とすることが中国においても近年特に重視されている。そんな考え方を如実に反映した内容が本書であり,経絡学説というフィルターを通して,臓腑・経脈・経筋・絡脈といった種々の病証体系を網羅した臨床に裨益するテキストであると考えられる。
 さらに,豊富な参考文献や用語解説および選穴解説等は経脈説をベースとした内容であり,「身体上の流注を覚えるだけでお仕舞い」といった日本の経絡流注の教育と異なり,経絡学説の本質の理解を深めるのに非常に有益であると考えられる。
 奇経八脈の病証も紹介されている。奇経も流注をベースとしながら臓腑や身体部位とのかかわりから愁訴と選穴が網羅されており,「正経と奇経は環の端なきがごとし」といわれながら,奇経の臨床的運用に関する詳細な解説本がほとんどない状況に一石を投じるテキストでもある。
 「経絡オタク」にとっては,付録1にある「十四経脈の循行についての考察」などは必見の価値がある。また,付録2の用語解説も古代医学用語の理解には不可欠な解説となっている。
 なお,十二経絡の病証中における経筋病や絡脈病の診断と治療などは茫漠としている感が否めない。しかし,本書の選穴に関する記述はあくまでも一つの考え方ではあるが,貴重な参考資料として活用しうる価値は非常に高い。
 本書を読んで,筆者が経絡病証に対する不満から,本誌に十二経脈の病証について,臓腑病・経脈病・経筋病として新たに区分した考え方はほぼ同じであるが,本書はさらに症状を虚・実,寒・熱に細かく区分して解説しているぶん,優れた分析であると感心した次第である。また,奇経八脈についてもぜひ臨床で活用したいと思う。
 良書との出合いに感謝!




中医臨床 通巻160号(Vol.41-No.1)特集/雑病に応用する汗法
『中医臨床』通巻160号(Vol.41-No.1)より転載



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