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【書評】『臨床家のための中医腫瘍学』
清水内科外科医院 清水雅行
わが国のがん患者数は高齢化の影響もあり増加の一途を辿っているが,がんに対する西洋医学的治療法は日進月歩ではあるもののいまだ限界があり,終わりの見えない戦いが続いている。さまざまな補完代替医療も探求されているなか,漢方・中医学的がん治療への期待も高まりを見せており,国内においても徐々に有用なエビデンスが集積されてきている。しかしながら,現状で多く用いられている漢方エキス剤主体の治療にもやはり限界があり,われわれは今後どのようにがんに立ち向かって行くべきなのか暗中模索の状態にある。そのようななかで本書は一条の光を照らしてくれている。
著者の鄒大同先生は,中国の南京中医薬大学を卒業されたのち中医腫瘍内科でがん治療の臨床に従事しておられたが,1996年に来日し,日本医科大学で医学博士号を取得された。その後,現在まで日本各地で中医腫瘍学の講義を重ねておられる。中国における中医がん治療の現状と,日本のがん治療の臨床現場において今なにが求められているかを熟知しておられる先生である。中国においてのここ30年の中医腫瘍学の発展は目覚ましいものがあり,多くの書籍や学術誌が刊行されているが,本書では古典から最新文献までを含めた盛りだくさんの内容を,簡潔かつ明解にまとめてある。過去から現在に至るまでの中医腫瘍学の全貌を俯瞰することができる1冊である。
本書の内容は第1部の総論と第2部の各論に分けられ,総論ではがんの病因病機・診断・治療原則・症状別の中医治療について解説し,中国で主流となっている中西医結合治療にもとづく化学療法・照射療法の副作用や合併症対策などについても論じられている。また,中国でがん治療に用いられる代表的な生薬・方剤・中成薬が扶正薬と祛邪薬に分けて解説されている。各論では26章の各章ごとに代表的ながんについて,それぞれに対する弁証論治と,治法に用いられている数多くの方剤が紹介してあるが,方剤名のみでなく構成生薬も記載してありわかりやすい。湯液療法のみならず鍼灸療法・食養生についても述べられており,また日本ではほとんど使用されていない外用法も記載されていて興味深い。数多く紹介されている中成薬にはぜひ試してみたいと思うものも多いが,日本国内で使用するのは困難であろう。しかしそれら中成薬の組成である構成生薬も記載してあるので,それを参考に方剤を加減して応用することができる。さらにはそれぞれの種類のがんについて,実際の症例に対する老中医の医案が紹介されている。その多くがここ数年以内に報告された最新の症例であり,いま現在,老中医が実際のがん臨床の現場においてどのような中医治療を行っているかを,臨場感を伴って知ることができる。
書名に「臨床家のための」とあるとおり,試行錯誤を重ねながらもさらに歩みを進めて行きたいと願っているわれわれ日本の中医臨床家にとって,これからの日本における中医がん治療の方向性を示し,力強く背中を後押ししてくれる1冊である。
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