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中医学をマスターする5つのステップ

【読者の声】『「証」の診方・治し方-実例によるトレーニングと解説―』

 
 「弁証論治トレーニング」を集めた一冊。もちろん内容は参考になるが,私は序章部分の「特殊診察法」(耳診や爪甲診など)が気に入っている。呉澤森先生は必ずといっていいほど耳を診断に使っておられる。私はまだ診断できるほどのレベルには達していないが,毎回耳を治療に使っていたところ,耳に顕著な変化がみられた症例があった。
 55歳女性,6月29日,右膝(++),とカルテにある。走った拍子に膝に痛みがはしったとのこと。整形外科で湿布をもらい,サポーターをしている。ときどき膝の水を抜きに通っている。「何年か前に左膝を痛めたときは3カ月くらいで良くなったから,そのくらいで治るんじゃないか」とおっしゃる。主訴が別にあったこと,膝周りの治療を嫌がられた(私の技術不足)こと,もともと月に1~2回体調管理のために通っていた方だったこともあり,特に積極的に膝の治療は勧めなかった。
 双方,たかをくくっていたら,なかなか改善しないまま冬になってしまった。冬の北海道は足元が滑りやすく,踏ん張った拍子にまた悪化するということを繰り返してしまう。整形外科に膝の水を抜きに行く回数が増え,年明けに「退職まで治療に通ってください」と言われたそうで,患者さんも私もマズイと思い始めたが,半分諦めていた。
 翌年3月,雪が解けて足元が良くなったので「本格的に膝の治療してみましょうか」と提案した。冬の間,耳の「膝の区域」には「細めの針金くらいの太さの青黒い毛細血管」があった。耳(膝・神門と膝以外の主訴に関する部分)に王不留行の代わりのマグレインは貼っていたが,太くて青黒い毛細血管は居座っていた。今回は四肢への鍼のほかに,呉先生の囲刺法(『中医臨床』139号,村上真人氏の「中医鍼灸研修生奮闘記」に記載あり。ただし,熱感が強かったので温灸はしなかった)を膝に追加した。もちろん耳にはマグレインも貼った。
 翌週,毛細血管の太さは変わらなかったが,色が「赤い毛細血管」になっていた。もしかしてと思ったら,患者さんも「膝の様子がいい,少し真面目に治療したい」と言ってくれた。冬の間,定期的に膝の水を抜いていたときは「黄色い水」が出ていたそうだが,「赤い毛細血管」の翌週は「黄色くない水で量も減った」とのこと。その日の耳は「細くなった赤い毛細血管」であった。「もう1回だけ治療しましょう。それでおそらく大丈夫ですよ」と,耳を診て患者さんに告げることができ,自分でも驚いた。今までなら,治ったのかどうか,あと何回治療したらいいのかを判断できずにいた。
 翌週,「今週はもう水を抜いていない,もうほとんど痛くない」とのこと。患者さんの耳には「生まれたばかりの糸ミミズ」のような細くてピンク色の毛細血管しかなかった。それも右耳のみ。左耳の毛細血管はなくなっていた。「もう大丈夫。膝の治療はこれで終了にしましょう」と自信をもって言えた。
 治療自体は囲刺法が効いたようだが,「耳をもっと診断や治療効果の判断に取り入れたい」と思えるきっかけになった。耳にはこんなにわかりやすく反応が出るのだ。
 蛇足ながら,囲刺法がなぜ効いたと思えたのかというと,最後2回の施術時,囲刺法と同時に太渓・復溜の陰経刺法を施した直後,囲刺法をした右足首のむくみはハッキリとなくなり足首にくびれのようなものが現れたのに,左足首にはそれほど現れなかったからである。囲刺法で右膝が通経できたのだと思う。これはこれで次回につながる発見になった。
 呉先生の著書は,初心者でも効果が出る素晴らしい実践書だと思う。多くの方に読んでいただくだけでなく,臨床で使っていただきたい。「呉先生だから効果が出る」ではなく,「誰にでもそれ相応の効果が出る」ことを実感していただければと思う。
 残念ながら呉先生の講座には行けないので,「手技のDVD」や「特殊診察法の書籍」の出版が待ち遠しい,ぜひ出版してください。

(北海道 鍼灸師)



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