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中医学をマスターする5つのステップ

【書評】『問診のすすめ―中医診断力を高める』

『問診のすすめ―中医診断力を高める』


TOMOTOMO(友と共に学ぶ東西医療研修の会)代表 石川家明


書を手に,ケースカンファレンスをしよう


  臨床の世界では大きなうねりがある。メーリングリストには日本中から毎日のように,疾患や薬についての情報交換や症例に対する活発な意見のやりとり,臨床推論やケースカンファレンスを主体としたさまざまな勉強会の案内が届いてくる。それも,学校や医局の壁を越えて,また地域の枠を越えて呼びかけが行われているのである。かつての日本の医療界ではとうてい考えもできなかった自由な学風が吹いていて,現代の若い医療人とその指導医たちの熱気を感じている。NHKで放映されているドクターG(General総合診療医)の放映もこの潮流が起きたからこそ企画できて,4年間も連続して放映されているのだろう。これは,10数年ほど前から起きている日本の医療における新たな現象である。
  さて,振り返って東洋医学界ではどうであろうか。そもそも,東洋医学は,生活に密着した医療であり,プライマリケアそのものであると認識されている。人間全体を診る「総合診療」であるので,今のブームよりもはるかに先立って行われていた先輩格であるはずだ。しかし,西洋医学界で特に若い医療者達で起きている熱気に,東洋医学界が先輩格として呼応しているかと見ると,残念ながらはなはだ心許ない。
  医療面接が総合的なまなざしによって行われていれば,問診の重要性はいやが上にも高まる。医療推論における問診の寄与率は70~90%であるといわれている。ハイテク医療機器の備わった西洋医学の数字であるが,ローテクの東洋医学ではなおさらのことであろう。問診の重要性は洋の東西を問わないのである。しかし,残念ながら中医学の臨床推論の技法を示した書は皆無といってよい。
  そんな折,中医学で問診の重要性を強調した書が上梓された。『問診のすすめ』である。金子朝彦・邱紅梅両氏による夫婦の共同執筆である。第1章から第4章までが,金子氏の執筆でほぼ本書総ページの半分を,第5章以降の半分量を邱氏が参画したそうである。文字通り夫唱婦随の労作である。
  筆者独特の言い回し表現が随所にあり,けっして読みやすい文章とはいえないのだが,行間からは筆者が診療においていつも患者の言葉を理解しようとしている真摯さが伝わってくる。微に入り細に入り問診における機微を提示して解説してくれるので,これから診療を行う,羅針盤のない初心者にはうってつけの書であろう。全編が問診のコツであり,ベッドサイドに使えるティップスが満載されている。それは生活のなかの医療である中国医学(伝統中医学)の特色をつかみ,患者の発する愁訴を中医学専門用語に置き換えるためになされている。症状を医学用語に置き換えて,臨床推論に寄与させる中医学的SQ(Semantic Qualifier)である。
  圧巻は第5章の各論で,代表的な愁訴をどのように攻めるかを,診療の実際に即したチャートで示しているところであろう。この書を持って,臨床現場で議論したい誘惑に駆られるのは私ばかりではなかろう。これを契機に,日本中で症例検討勉強会が行われるようになればと切に願う。外で起きていることに対応することこそが,未来に残る日本の地の中医学になるはずだからである。
  ともあれ,類書がなく,新しいジャンルに果敢に挑戦した書である。中国医学がもつ独自性のある医療推論論理を紐解くためにも,同ジャンルの学術展開が望まれる。


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